桜井君、これは君の守り刀だ。どんな事があっても離してはならない。わかったか。」力強く大きな右手で渡してくれたずっしりとした日本刀。昭和五十七年の秋の事でした。

その方の買ってくださったお仏壇は厨子型の高級品。価格は百五十万円でした。ところが、現金五十万と他に渡してくれたのが一本の銘刀。

「今日、必ず百五十万をもらってきてください。そうしないと明日、社員への給料の支払いができません。必ず必ず集金してきてください。」会社を出る前に経理係りの鈴木さんから何度も念を押されていた私。起ち上げたばかりで名もなく貧しい会社。「明日の飯より、晩の飯」という切羽詰まった状況でした。

 

私に守り刀をくださった方は、尺八の道場を庭に建て、尺八の名手であり、大の馬好き、乗馬ズボンが欲しいと言う軍隊上がりの父に、身長を聞くだけで、ぴったりのズボンを作り、大層喜ばせ親孝行することもできました。

刀の収集家としても知られ、様々な趣味を極めた人でした。その方がくださった日本刀が価値のあるものであることは当然です。

 

しかし「背に腹は代えられぬ」と、知人に相談したところ、大の「刀好き」を紹介してくださいました。

すっ飛んで行き、早速刀をお見せすると開口一番「いくら欲しいの?」

率直な物言いにとまどいながらも「あのぅ百万円です。」と答えた。その方は顔色ひとつ変えず「あっそう百万でいいのね。」と奥に入り、無造作に一束のお金を持っていらっしゃいました。そして「これで本当にいいのだね。」と念

をおされ、刀を受け取られた。その間わずか七、八秒。

 

「守り刀」を簡単に手渡してしまった後悔よりも、現金に代わったうれしさで、すぐに会社に電話を入れるべく公衆電話へ「今月の給料大丈夫だよ!」とはずむ声で連絡をする。

T社設立の頃のエピソードです。

 

お仏壇、御墓、お祭り用品の販売に携わって四十年。そのキャリアを活かして今年「株式会社とっと」を起ち上げることができました。

「絶対この守り刀を手から離すな。」と言われた言葉が何十年経っても耳から離れません。しかし今、私の会社には、七人の侍よろしく七人の名刀が揃い、「何でも協力するよ!」と言ってくれる「とっとサポーター」の面々がいます。

そして福島県二本松の佐藤様。昭和五十六年のT社開店時にお祝い金をくださった様に、今回「株式会社とっと」開店にもお祝い金を送ってくださいました。「同じ人に同じ開店祝いを二度も送ってあげられるなんて長生きはするもんだなぁい。桜井くんは私に比べたらまだまだ若い。」と笑ってくれる九十四歳。

目に見えない守り刀がどこかで力強いエールを送ってくれているのか、大勢の方々が背を押してくださり、闇の向こうに光がある事を教えられる日々です。

 

     平成二十五年十一月二十三日
   株式会社とっと 代表取締役 桜井 カツエ